備前焼の焼き色
胡麻(ごま)、桟切(さんぎり)、火襷(ひだすき)、牡丹餅(ぼたもち)、青備前(あおびぜん)、黒備前(黒備前)、白備前(しろびぜん)、など備前焼には特有の神秘的な焼き色や柄があります。 備前焼の焼き色や柄は、備前焼作家の経験をもとに窯の様式や作品の詰め方などが緻密に計算され、そこに窯の中の温度や燃料となる松割木の炎や灰、窯入れの際に入れた藁などの様々な要素が重なって生み出されています。 このページでは、備前焼の様々な焼き色や柄をご紹介します。
胡麻(ごま)
前焼特有の柄のひとつである胡麻(ごま)は、その名のとおりまるで胡麻をまぶしたような粒模様のことです。白や黄色、青など様々な色の胡麻があり、炎の力強さが感じられる模様です。 焼成時の炎の勢いによって松割木の灰が作品に付着し、付着した灰が窯の中の高い熱によってガラス化(釉化)してうまれます。 そのため胡麻の柄をつくるには、灰が多く付着する炎近くの上の方の棚に作品を置きます。このように自然に灰がガラス化してできた胡麻を自然釉といいますが、現在はこの自然釉の他に、人為的に胡麻を出すため灰を焼成前に作品に付けて焼くこともあります。 胡麻のなかでも特に白いものを「白ごま」、溶け切らずに焼きあがったものを「かせごま」、焼成中に作品に多く付着した灰が熱で溶けてたれたものを「玉だれ」や「流れ胡麻」「たれ胡麻」などと呼びます。
桟切(さんぎり)
作品の一部が燃料が燃え尽きてできた灰や熾きに埋もれて、空気の流れが滞り、いぶし焼になることで埋もれた部分の色が変わり、陶肌に模様がうまれます。そのため、桟切(さんぎり)をつくるときは窯の床に作品を置きます。窖窯(あながま)などの自然な熾きに埋もれて出来たものを「自然桟切」といい、焼きあがりの時に作品の周りに人為的に炭を投入してできるものを「人工桟切」といい、自然桟切とは一味違う雰囲気になります。人口桟切は、炭を入れるため「炭サンギリ」とも呼ばれています。 桟切の色は、炭の強還元炎と一酸化炭素による還元により黒色から灰色、青色、赤褐色など様々に変化します。たとえば、炎が直接当たる部分は赤褐色に、灰に埋もれた部分は黒色に、炎と土との境目は灰色や青色に変化します。 呼び方の由来は諸説あるようですが、昔は窯の内部を桟(さん)で仕切っており、その桟の下で焼かれる作品にこの模様が現れたので桟切(さんぎり)と呼ばれるようになったという説や、窯の中の桟の切れた所でとれたことから桟切りと呼ぶようになったという説があります。
火襷(ひだすき)
備前焼の中でもっとも華やかな焼き色の火襷(緋襷)は、うす茶色の素地に「たすき」のような赤や茶、朱色などの線がかかった模様です。 もともとは作品を窯詰する際に、重ねた作品同士が溶着しないようにするために、耐火度の高い藁を作品の間に挟んでいましたが、素地の鉄分と藁のアルカリの成分が、化学反応によって藁が当たっている部分が鮮やかな緋色のたすき模様となり、これを模様として用いるようになりました。 今では、素地に藁を巻いた後、陶器を焼くための容器「サヤ」に作品を入れてから焼くので、炎や灰が直接作品に当たらず、作品全体は素地の色のような薄茶色に焼け、藁が当たった部分のたすき模様とのコントラストがとても力強く美しく、根強い人気があります。 また、電気窯と穴窯で焼いたものは色に違いがあり、一般的に電気窯で焼いたものは明るいオレンジ色、穴窯で焼いたものは赤茶色のような色合いになり、この赤茶色のような色合いは穴窯でないと出せれません。そのため、電気窯で焼成したものと比べて、値段も少し高くなります。
牡丹餅(ぼたもち)
牡丹餅(ぼたもち)は、焼成時に作品の上にぐい呑などの小さな作品を重ねて置き、火が直接当たらないところに焼けムラができます。その焼けムラが丸く、まるで牡丹餅を乗せたような柄であることからこの名前がつけられるようになりました。直接火に触れる中心部と、若干火に触れる重ね合わせた周辺部で牡丹餅の色には違いがあり、赤や茶色、白など様々です。 牡丹餅も火襷と同様に、元々は窯詰の際に作品同士を重ねるための緩衝材のような役割として用いられていました。昔の窯では棚板が使われていなかったために、多くの作品を重ね焼きをしていました。特に備前焼は釉薬を使わないため、作品同士がくっつく恐れが少なく、直接重ねる事ができる為、一般に重ね焼きが行われていました。 現在は、耐火度も高い粘土でせんべい状の「ボタ」を作り、それを乗せて意識的にこの模様を作ることもあります。
青備前(あおびぜん)
青備前を作るためには、窯の中の、酸素を取り除く(還元)作用が強い場所で焼成します。 すると、備前の土には鉄分が多く含まれているため、作品は青灰色~黒色に焼きあがります。 窯の中の還元状態になる場所は少ないうえに、必ず意図したとおりの発色になるとは限らず、生産がとても難しいため、造る窯元も少ない焼き色のひとつです。 食器類に関してはデパートなどにはまず出回っておらず、県外の方などは知らない人も多いのではないでしょうか。一般的に青備前は、香炉といった茶道具に用いられており、非常に希少価値がたかく、昔から珍重されてきました。 さらに青備前には、「塩青」、「食塩青」があります。 作品の焼成中に食塩を投入し、食塩から揮発したアルカリを釉薬状に素地にまとわりつかせ、冷却還元によって青く発色させます。これは塩釉の一種です。表面を釉化させるので普通の青備前や備前焼と比べて肌ざわりがとても滑らかで、青備前と区別して「塩青」や「食塩青」と言われます。
黒備前(くろびぜん)
黒備前は江戸時代の古備前に焼かれた備前焼のひとつで、残っている当時の作品はごくわずかだそうです。 近年、再現する技法が研究されており、備前焼窯元の六姓のひとつ、森家の大窯やその他著名な備前陶芸かの間でも焼かれるようになってきています。 黒備前を作る際、窖窯で多く用いられる伊部手(いんべて)と呼ばれる技法が用いられます。 まず成形後に器の表面に、鉄分を多く含んだ泥状の粘土を塗って焼き上げます。すると、作品表面の土が早く溶けだして、紫蘇色~黒色になります。 このとき表面に塗る泥上の粘土の鉄分含有量によって焼き上がりの色の濃さに違いがでます。また、早く溶けだした土は釉薬のような働きをするため、ほかの備前焼とは少し違った独特の風合いになります。 一般に出回っているものの中には、なんとなく黒っぽいだけで黒備前と名付けられたものもありますが、それは本来の黒備前の姿ではありません。
白備前(しろびぜん)
白備前は、その名の通り、白色の備前焼です。 備前焼の七不思議でもご紹介したような、備前焼の良い性質はそのままに、土色ではない白色をした異色の備前焼を楽しむことができます。 白備前の歴史は古く、江戸時代の備前焼が衰退して苦戦していた時期に、その不振から脱却するために、備前市にある現在の「特別史跡旧閑谷学校」で、釉薬を使った白い陶器(閑谷焼き)が作られていました。その後、閑谷焼の影響を受けて、白い土を材料にして白や透明の釉薬を使用して、高火度での焼成にて作られるようになりました。 しかし、1710年には岡山藩からの命令により、備前焼窯元六姓 木村家の総本家初代 木村長十郎が白磁器の研究を行うために試作を重ね、翌年1711年から釉薬を使わない白備前を焼き、白備前の制作を行ったとされています。そのときの作品は、藩の贈与品として活用されたそうです。 けれども、このような支援は数年で終わってしまったため、その後は備前市伊部の陶工たちによって細々と作られるようになります。 白備前の製法は作家によって様々な製法が用いられていますが、鉄分の少ない土を焼しめることにより、釉薬を使用せずに白を出せるようになったと言われています。今では、白備前を制作する作家が少なく、上記で説明したとおり作家によって製法が異なるため、非常に希少価値が高く、古いものは骨董品としても重宝されています。